これまでの経緯
(更新:2020年3月14日)
伊豆半島の最南端に位置する南伊豆町と下田市の沿岸からわずか1キロ~10キロの洋上に高さ154~260メートルの巨大風車を最大100基建設して海底ケーブルで伊東市まで送電する、総出力50万キロワット(500メガワット)の海洋風力発電所の建設計画が進行中です。
事業者であるパシフィコ・エナジー社は、2019年8月に『計画段階環境配慮書』を提出、環境影響評価(環境アセスメント)を実施する手続きを開始しました。
これを受けて静岡県は専門家による「環境影響評価審査会」を開催。委員からは伊豆の観光資源としても貴重な海岸景観への影響に対する懸念が続出、答申には景観、観光、漁業、地震・津波の面で「強い懸念」があると明記されました(伊豆新聞/2019年10月4日)。
川勝平太・静岡県知事も、計画は「伊豆に対する冒とく」であり「根本的に間違っている」、景観だけでなく船舶の安全航行、漁業への影響などの面でも「何ひとつ良いことはない」と発言、「法律で許される範囲で阻止する方向」を表明しました (伊豆新聞/2019年10月8日)。
静岡県は『配慮書』に対する「県知事意見」を10月17日に事業者と経済産業省に提出。事業実施想定区域が富士箱根伊豆国立公園に指定された美しい海岸線やUNESCO認定ジオパークとして国際的に価値ある地質資産を有する「国内外から多くの人々が訪れる全国でも有数の観光地」であり、駿河湾や相模湾が豊かな漁場であることから、景観や生態系への影響に「強い懸念」を示しました。
10月21日に公表された「環境大臣意見」では、事業の対象海域内の「リアス式海岸等の海岸景観に対する重大な影響を回避又は十分に低減できない可能性が極めて高い」と指摘したうえで、影響が回避できない場合は「風力発電設備等の配置等の再検討、対象事業実施区域の見直し及び基数の削減を含む事業計画の大幅な見直しを行うこと」を求めています。
10月31日に「経済産業大臣意見」が提示され環境アセスメントの『配慮書』段階が終了、事業者は次の段階である『方法書』の提出を着々と準備しています。
同時に、風車建設が自然環境や景観に及ぼす悪影響への懸念や、風車が発する耳には聴こえない超低周波音が人体に与える影響への不安、さらにはバックアップ電源を前提とする風力発電のCO2削減効果への疑問などを背景に、地元地域の反対も鮮明になってきています。
市民レベルでは、下田の医師が伊豆新聞に風車反対の新聞広告を掲載、年末年始には市民有志が風車建設から守り伝えたい伊豆の海を様々な形で表現する企画展を開催しました。
最大の利害関係者である伊豆漁協は11月25日の理事会で風車建設への反対を全会一致で決議しました。また、川勝知事に続いて南伊豆町長と下田市長も計画への懸念を表明しています。
そして2020年3月、下田市議会(12日)と南伊豆町議会(13日)がそれぞれ本会議で洋上風車建設計画の撤回を求める意見書を全会一致で採択しています。
このように地元の反対が鮮明になりつつある現状ですが、果たして事業者側には聞く耳があるのか。まだまだ予断を許しません。
現在 明らかになっている計画の概要は、以下のとおりです。
事業の概要
● 事業の名称:(仮称)パシフィコ・エナジー南伊豆洋上風力発電事業
● 事業者の名称:パシフィコ・エナジー株式会社
● 代表者の氏名:代表取締役 松尾 大樹
● 主たる事務所の所在地:東京都港区六本木3-2-1 六本木グランドタワー37階
● 風力発電所の総出力:500,000kW(最大)※
● 風力発電機の単機出力:5,000~12,000kW程度
● 風力発電機の設置基数:最大100基(単機出力5,000kWの場合)
「※風力発電所総出力は計画段階における想定規模であり、風力発電機の単機出力及び設置基数に応じて変動する可能性がある。総出力500,000kWを超過する場合は、これを下回るように出力調整を行うこととする。」
★SOS IZU補足
総出力50万キロワット(500メガワット)といえば、総出力100万キロワットの原発1基の半分のエネルギ ー。これを「東京電力に売電する」と、2019年8月20日付け静岡新聞は伝えている。
● 事業実施想定区域
(1)風車設置区域:静岡県南伊豆町、下田市の沿岸および沖合
選定の理由は、好風況が見込まれる、水深が比較的浅い。
(2)関連設備設置区域
静岡県南伊豆町、下田市、河津町、東伊豆町、伊東市の沿岸および沖合
選定の理由は、検討中の海底ケーブル敷設および陸揚げ地点で影響が生じる可能性があるから。
● 事業実施想定区域の面積
約41,904ha(うち風車設置予定範囲:約11,406ha)
● 法令等の制約を受ける範囲
(1)「自然公園地域:事業実施想定区域の周囲には、富士箱根伊豆国立公園が設定されており、風車設置予定範囲の一部は普通地域に指定されている。」
(2)「環境配慮施設等:事業実施想定区域の周囲には、住居及び学校、病因、福祉施設等の環境配慮施設が分布する。方法書以降の手続きにおいて、住居及び環境配慮施設から十分に隔離し、環境影響の回避・低減を考慮して事業実施区域の絞り込みを行い、風力発電機の設置計画を検討する。」
(3)「港湾区域:事業実施想定区域の周囲には、避難港湾である下田港湾が位置している。下田港港口部では、昭和55年(1980年)から津波対策を兼ねた下田港防波堤事業が進められている。」
● 事業にかかわる電気工作物その他の設備
(1)風力発電機
基礎構造は着床式(モノパイルまたはジャケット方式)を検討中だが、今後の詳細設計によっては他の方式の基礎構造が採用候補となる可能性もある。
(2)変電施設・送電線・系統連係地点
現在検討中。
● 風力発電機の概要
(1)定格出力(定格運転時の出力):5,000~12,000kW級
(2)ブレード枚数:3枚
(3)ローター直径(ブレードの回転直径):127~220m
(4)ハブ高さ(ブレードの中心の高さ):平均海面より90~150m
(5)最大高さ(ブレードの先端の高さ):平均海面より154~260m
(6)基礎構造(想定):着床式(モノパイルまたはジャケット方式)
● 発電機の配置計画
「風車設置予定範囲の中で、近傍の住居及び環境配慮施設との隔離距離、風車間の距離、水深、海底地質などを総合的に考慮して最適な風力発電機の配置を行う。」
(1)「住居及び環境配慮施設との隔離距離:近傍の住居及び環境配慮施設への環境影響をできる限り回避・低減するために(中略)隔離距離を1,000m以上確保するよう、風力発電機の配置計画を検討する。」
(2)「風車間距離:風車間の干渉を低減するような風力発電機の配置計画を検討する。尚、ローター直径が大きな風力発電機を採用する場合は基数が減り、ローター直径が小さな風力発電機を採用する場合は基数が増える。」
(3)「水深、海底地質:風車設置予定範囲の水深は100m以浅であり、風車間を繋ぐ海底ケーブルを敷設する可能性のある水深も考慮した。より正確な水深を把握するため、海底地質調査を今後実施する予定である。また、海底地質を把握するため、ボーリング調査等についても実施する予定である。」
● 主な工事
(1)基礎工事
(2)風力発電機設置工事(風車輸送を含む)
(3)電気工事(送電線工事、所内配電線工事、変電所工事
● 工事期間、工事工程、輸送計画については、現在検討中。
● 着工/運転開始の時期について(新聞報道から)
工事の着工は「早ければ2023年」、運転開始は2026年を目指す、との報道あり(2019年8月20日付け静岡新聞、同8月28日付け伊豆新聞)。
なお、南伊豆沖の本計画より手続きが2か月ほど先行する形で同じ会社が進めている「(仮称)パシフィコ・エナジー遠州灘洋上風力発電事業計画」については、「2022年着工、2025年の運転開始を目指している」と静岡新聞が報じている(2019年5月31日)。
● 計画段階で配慮すべき事項
法令に基づき「事業特性及び地域特性を踏まえて、重大な影響のおそれのある環境要素」を検討した結果、以下の5つを「計画段階配慮事項」として選定している。
「騒音及び超低周波音」
「風車の影」(いわゆる「シャドー・フリッカー」)
「動物」
「植物」
「景観」
○出典:パシフィコ・エナジー社が提出した『(仮称)パシフィコ・エナジー 南伊豆洋上風力発電事業計画段階環境配慮書』(2019年8月)からのメモをもとにしている。「 」内は、原文どおり書き写した箇所。その他の出典はその都度明記した。
photo: AOKI Mayuri